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十八代目お礼文(夜+昼/保険医パロ/出会い編)

夜+昼(保険医パロ/出会い編)




「えーと図書館、図書館と」

中学3年の夏休み、僕は高校見学の真っ最中だった。通常2校が一般なのだが、祖父が何校見ても損はないと言い張ったのであちらこちらと走り回っている次第である。といっても限界があるので、合わせて5校が今のところの僕の見学記録なのだが。

「にしてもここの図書館、随分離れた場所にあるなあ」

見取り図をもう一度眺め、つたう汗を拭う。
部活見学より何よりも図書館の蔵書内容が肝要だ。部活は多分入らないので(たとえ入ったとしても書道部くらいだ)、友達に誘われた部活見学は丁重にお断りした。
高校受験もそうだが、見学などは基本自分の学力が基準である。僕の場合ら日頃それなりに勉学に励んだおかげで選べる幅は大きかった。
ちなみに今居る浮世絵高校は僕があと一歩で届く偏差値のところだったりする。皆が憧れる進学校。校舎はまだ建て替えたばかりで新しいのも魅力的らしい。

「でも広いし初めてにはキツイかも…」

迷子になる確率が最初は酷そうだと確信し、つい笑ってしまう。
もともと僕はここを受験するつもりはなかった。確かに狙えなくはない位置にあるし、内申も4より5が多い。それでもわざわざ学力より上の高校に入学したところで生活が楽しくなるとは到底思えなかった。
だから無理なく入れる浮世絵北高校に入ろうと考えている。浮世絵高校は新しい校舎だからという簡単な理由で、所謂物見遊山だ。

「あ、あの角を曲がれば―――」

着くんだ、と思った瞬間、ドンと誰かとぶつかった。走っていたわけではないのにぶつかったので、周りへの注意が散漫していたらしい。しかし軽くよろめいただけで、尻餅はつかなかった。

「おっとすまねぇな、坊主」
「いえいえ…」

若い声だなと思いつつ、視線を上げて息を飲んだ。
―――なんて綺麗な人。

「ちっと急いでてな、周りが見えちゃあいなかったみてぇだぜ」
「はあ…」
「ん。どうした、ぼけっとして。どこか痛いか」

言われて不審だと気が付き僕は慌てて大丈夫です、と叫んだ。
長くたおやかな白髪、そして切れ長な瞳に思わず引き込まれていた。

「それだけ叫べりゃあ元気か。ま、無理すんじゃねぇよ」
「は、はい」

吃りながらも返事を返せば、口元を上げてよし、と言われる。その姿にときりと心臓が鳴った。
ごまかそうとしてふと胸元を見れば、首から下げられたネームプレートが目に入る。この学校の関係者なのだろう。名前は―――。

「げ、そろそろ行かねぇとつららに怒られちまうな」

どうやら急いでいたのはやはりあちららしい。じゃあなと暇乞いを告げられ、白衣を颯爽と翻して僕が出てきた校舎へと足を向けた。
僕はあの、といつの間にか声を出していた。引き止めようと見えない手を伸ばす。相手が急いでいるのを知っているのに、止められなかった。

「―――貴方の、名前を教えて下さいっ!」

しかし聞けたのはそんな単純なこと。不躾にも程がある。
だが、その人は律儀にも振り返って、

「俺は夜―――しがない保険医さ」

今度こそじゃあなと手を振られる。それを呆然と見送ったあと、僕ははっと正気に戻った。

そして気付く。沸き上がる衝動が、僕の指針を捩曲げた。

直ぐさまポケットに突っ込んであった携帯を手に取りあげ、

「じいちゃん、僕浮世絵高校受験する!」

と、宣言してしまった。
それから中学の学年トップまで上り詰めるまでそう時間は掛からなかったのは言うまでもない。




***
いつぞやの保険医夜若です^^
こんな出会いだったりします。夜若はこのパロディでは割と兄貴肌です(だって保険医だもん!←)。
やっぱり白衣が似合うと思うのです^^




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あきゅろす。
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